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新潟地方裁判所 昭和47年(ワ)16号 判決 1975年12月24日

原告(反訴被告)

満間テツ子

右訴訟代理人

中沢栄七郎

被告(反訴原告)

滝沢諭

右訴訟代理人

今井敬弥

外一名

主文

一、原告(反訴被告)の本訴請求を棄却する。

二、被告(反訴原告)の反訴請求につき

(一)  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し北浦原郡笹神村の村杉芸妓置屋組合の組合員たる地位を譲渡したことについて同組合の同意を求める手続をせよ。

(二)  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し村杉温泉局二〇四一番(旧同局四八番)電話加入権名義を被告(反訴原告)名義に変更申請手続をせよ。

三  訴訟費用は本訴・反訴を通じて原告(反訴被告)の負担とする。

事実

第一  申立

一、原告(反訴被告、以下「原告」という)

本訴につき、「原告と被告(反訴原告、以下「被告」という)との間に昭和四六年九月六日付の芸妓置屋権利譲渡証書(甲第一号証)によつて締結された村杉温泉芸妓置屋桐の家(旧名一乃家)の営業および村杉温泉局二〇四一番(旧同局四八番)の電話加入権の譲渡契約は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、反訴につき「被告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二、被告

本訴につき、主文第一項同旨および「訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、反訴につき、主文第二項(一)、(二)同旨および「訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  当事者の主張<以下省略>

理由

第一原告は北浦原郡笹神村の村杉芸妓置屋組合の組合員であり、北蒲原郡笹神村大字大室四五一〇番地において、(原告本人尋問の結果によるとその後、原告の頭書肩書住所地に移転したことが認められる)芸妓二名を同居せしめ、芸妓置屋桐の家の営業を営み、本件電話加入権を有していたが、昭和四六年九月六日被告に右置屋の営業と電話加入権を代金一五〇万円で譲渡したことは当事者間に争いがない。

第二そこで、本件譲渡契約について、原告の主張する強迫ないし公序良俗の違反があるかどうかを検討する。

一<証拠>によると、被告は原告の内縁の夫である小林信孝に対し訴外柄沢太惣治を連帯保証人として三回にわたり合計七〇万円を貸与したが、弁済期に弁済されなかつたので右訴外柄沢太惣治に返済の請求をしたところ、昭和四六年九月ころ原告から訴外関口俊夫を介して右七〇万円の決済のために本件置屋の営業と電話加入権を一五〇万円で譲渡したい旨の申し入れがあり、同月六日訴外柄沢太惣治、同関口俊夫各立合のもとで原・被告間に本件譲渡契約が締結され、代金一五〇万円に被告の小林信孝に対する貸金七〇万円とこれに対する利息一五万円が充当され、その残額六五万円も支払われたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、本件譲渡契約において被告が原告を強迫したことを認める証拠はないので、この点に関する原告の主張は理由がない。

二原・被告間に本件置屋の営業および電話加入権のほか芸妓二名を譲渡する旨の契約が締結されたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、本件譲渡において作成された芸妓置屋権利譲渡書(甲第一号証)に「現在使用の芸妓二名も含む」と記載されているが、これは被告は本件置屋の営業を譲り受け営業主となるが、原告がひきつづき前記桐の屋(旧名一乃屋)の家屋(原告が訴外荒木猪一より賃借したものである)に居住し、被告の指示のもとで置屋の営業に従事し、従前と同様の条件で芸妓二名(訴外甲野花子、同乙野月子<仮名>)を使用していくことを認めたものであつて、芸妓を売買の対象としたのでないことは勿論、本件譲渡により芸妓二名を何ら拘束するのでないことは明らかであるから原告の公序良俗違反の主張は失当である。

以上のとおり、本件譲渡契約は有効であるから、原告の本訴請求は理由がなく、被告は原告より本件置屋の営業と電話加入権を取得したことになる。

第三原告が村杉芸妓組合の組合員であることは前認定のとおりであり、原・被告間に原告は被告に対し右組合員たる地位を譲渡し、被告が村杉温泉において芸妓置屋の営業を営むことを右組合に認めさせる旨の契約が締結されたことは当事者間に争いのないところ、<証拠>によると村杉温泉において芸妓置屋の営業を営むには右組合に加入し、組合員であることが必要であるが、組合員たる地位を譲り受けるには譲渡人(原告)より組合に対し同意を得なければならない(村杉芸妓置屋組合規約第四条)ことが認められるので、原告は被告に対し本件譲渡契約により組合員たる地位を譲渡するについて組合の同意を得る手続をなすべき義務を負担したものというべきである。

第四以上の次第で、原告の本訴請求は失当であるので棄却し被告の反訴請求は正当であるので認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(羽淵清司)

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